大学院受験生に

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菅野了次・平山雅章

連絡先

菅野了次 教授
kanno<at>echem.titech.ac.jp
045-924-5401

平山雅章 准教授 
hirayama<at>echem.titech.ac.jp
045-924-5570

〒226-8502
横浜市緑区長津田町4259
G1-1
東京工業大学G1棟10F

研究内容/手法編

物質合成

世の中に存在する化学物質は、言うまでもなく元素の組み合わせでできています。周期表に記載されている元素の数は百をすこし越えていて、その組み合わせに は無限の可能性があるように思えます。でも、無機化学をすこしでも勉強した人であれば、その組み合わせには規則があり、むやみに組み合わせてもだめなこと はわかっていただけますね。無機化学者にとって、周期表とは、元素を組み合わせることによって自分の世界を作り出すことのできる大舞台で、その中にある元 素はキャンバスに絵を書く時に使う絵の具のようなものです。でも、その絵の具の使い方はいろんな規則でがんじがらめになっていて、「百いくつしか絵の具が ないのはいかにも少ない」、と常にため息をついています。あと3倍、いや少なくとも2倍ほどの元素の種類が自由に使えるのならば、もっとすばらしい物質を 作り出すことができるのに。


ある物質を創りたいと思っても、その通りに作り出すのは、残念ながら難しいです。でも、合成にはいろいろなレベルがあります。初心者マークのついた合成化 学者(学生)から、合成に関する知識と豊富な経験とを基にして実用材料を作るのを仕事としている技術者、卓越した洞察力と精緻な実験技術を駆使してオリジ ナルな物質を創り出す研究者、膨大な物質の知識を持つ老練な化学者まで様々です。プロの目から見ると、創り出した物質によってその人の化学者としての技量 や力量は、恐ろしいもので、すぐわかります。でも、世の中に役に立つかどうかは、その人の持つ物質合成の知識や技量とはあまり関係ないのも事実です。(役 に立つ、という言葉は難しいです。実用材料として用いることができる、というのはむろんですが、そのものの形・構造や振る舞いがおもしろくて知的興味を満 たすことができる、というのも役に立つという範疇に入ります。)
 「化学物質」というと、あまりイメージが良くないですね。残念なことです。これまでの化学物質について、負の遺産は確かにありますが、この問題を解決す るのも化学者の役割です。物質の合成をテーマとして自分の世界を作り上げてゆくのは化学者としての本能ですが、世の中にどのように貢献するかを常に考えな がら進めてゆくのも、これからの研究者の使命です。

 物質合成の技量についてもうすこし述べましょう。

レベル1(ビギナー)

 ある物質のある性質が優れていることがわかっているとき、その特性を上げたいと誰しも思います。その物質がABという組成を持っていると、Aを少しだけ Cに置き換える、Bを少しだけDという別の元素に置き換える、という操作をします。CやDの元素の種類の選び方は、化学を勉強すると大体わかります。で も、めったやたらに(システマティックに)置き換えても結果はあまりかわらないどころか、予想もしなかったすばらしい結果がでる可能性もあります。これを 見逃さないのも実力(運)のうちです。


レベル2(無機化学のプロ)

 自然界は、物質の宝庫です。無機化学の話をしていますので、無機物質に対象を限ります。たとえば、地球は巨大な反応容器として考えることができて、その 反応容器からできてきた物質(鉱物)は、無機化学者の先生です。私たちは1気圧と20℃付近の世界に住んでいますが、地球の内部は大変高い圧力と温度に なっています。そこで、鉱物の生成条件を参考にして、実験室でその合成条件をまねて新しい物質を作り出すことも可能です。自然を先生として、謙虚に自然界 の物質を見習うのが、合成のプロへの第一歩です。

レベル3(卓越した科学者) 

 次はエキスパートのレベルです。周期表を舞台として、自分の元素の知識と経験(と勘)を信じて、無地のキャンバスに元素を絵の具のように自由に使いこなして物質を作り出してゆきます。
個性的な、独創的な1つの物質を作り出してゆくには時間がかかります。一仕事10年。卓越した無機化学者が作り出し、描くことのできる物質の世界は、一人 の研究者の生涯のなかでせいぜい数種類です。現在のめまぐるしく変化する世の中に、逆らうような仕事ぶりですね。でも、だから学問なのです。

 無機合成について、具体的に考えてみましょう。
 無機合成の化学者が常に考えているパラメーターを列挙します。
反応の温度(室温から2000℃)、反応の圧力(真空から超高圧)、溶媒の種類(水、有機溶媒など)、原料物質の形態(固体、液体、気体、どれを利用してもいいのです)。
ここから最適の組み合わせを選び出すことが第1歩です。
 人が関与できるパラメーターをいかに増やしていったのかが、これまでの無機物質合成の歴史です。常温常圧の合成から高温常圧、高温高圧に展開し、最近で は真空中で1原子層ずつ原子を置いてゆく合成の手法も用いられるようになってきました。でも、あくまでも道具は道具で、どのような絵を描くかは、研究者の 個性です。
 これまでにない個性的な絵を描きたいと思っているわけですから、当然ながら、選ぶ絵の具や絵の構成(対象とする物質、実験手法、実験条件などに対応します)は考え抜いた上です。それでも、めざした物質が出来るかどうかは、人智を越えたところにあります。 
このように、自分で物質を創り出すという作業は、芸術にも似て、最高に知的なゲームであり創造であることがわかっていただけると思います。
 無機物質を創り出すためには、身近に様々な合成の手法を持っていると便利です。我々は、通常の焼成法に加えて、高圧合成、薄膜合成法などの手法でいろい ろなパラメーターを変化させることができます。でも、上に述べましたように、結局なにかを創り出そうとする強い意志と知識、一番大事なのは実験への熱意でしょうね。

薄膜合成

最近、我々の研究室では薄膜合成に凝っています。薄膜を作るのがどうしておもしろいのか、少し述べてみましょう。
 無機化学の教科書の最初の方に、結晶構造の章がありますね。無機化学でなくても固体科学に関する教科書ならば、最初の方に必ず記述してあるはずです。そ こには、結晶の成り立ちが書いてあって、結晶は三次元的に最小の繰り返し単位が無限に(ではないですが)繰り返して成り立っている、となっています。結晶 構造を記述する基本は単位格子ですが、イオン(または原子の)最密充てんを基本に記述する方法もあります。これも、教科書にありますね。立方最密充てんと 六方最密充てんがあって、その四面体の隙間や八面体の隙間に別のイオンが占めて結晶構造を作っています。
 さて、ABXという物質を作り出すとき、通常はAとBとXとを混ぜて温度を上げる、とか、水などの溶媒に溶かしてから析出させるとかします。すなわち、 出発原料を混ぜて、反応させるのですが、思い通りの物質ができあがるかどうか、なかなか予想するのは難しいです。むろん、思い通りになるようにこれまでの 膨大な合成と結晶構造に関する知識の集積があるのですが、これまでの知識を駆使しても、できるかどうか、最後は合成する研究者が決めることはできないので す。そう、誰か、が決めてしまっているようです。その真理に迫ろうとするのが学問なのですが、ここではちょっとおいておきます。
 無機合成を生業とする人ならば、思い通りに物質を組み立ててみたい、と考えるのは自然なことです。立方最密充てんの構造であれば、AのうえにBを積み、 その上にCを積む、と授業では習います。でも、それは自然に成り立っているので(不思議です)我々が勝手にAの上にB、BのうえにC、Cの上にB、そのう えに、、、と決めることはできません。でも、思い通りに組み立ててみたい。
 気相中で合成する手法は、基板の上にAの原子を1層だけ載せて、その上にBの原子を1層載せて、その上にまたCの原子を載せる、そんなことが原理的には可能になります。
 思いのままに、物質を創り出すことができる。実際はそんなに簡単ではなくって、やっぱり、好きなように組み立てるのは難しいのですが、それでも通常の固相反応で合成するよりも、ほんのちょっとだけ、思いのままに合成できます。
 現在、実際の研究は、エピタキシャル成長で電池材料の薄膜を合成して、理想的な電気化学界面を創り出そうとしていますが、バルク合成を行っている研究者にとっても、薄膜合成はなかなか魅力的です

構造解析

X線を用いた構造解析に加え、当研究室では中性子散乱を用いて、物質の構造を調べている。中性子散乱実験は主に、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の 中性子散乱施設を利用して行っている。粉末回折計VEGA、Sirius、小角散乱装置SWANなどを用いて、結晶構造や中・長距離にわたる構造を調べて いる。この他に、日本原子力研究所(東海村)、アルゴンヌ国立研究所(USA)、ラザフォード研究所(UK)、ILL(フランス)などで行っている。

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高エネルギー加速器研究機構中性子散乱施設の高分解能中性子粉末回折装置Sirius